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第5話 ギルド嬢に言い訳するならこんな風に

「お帰りなさい……あら?」  冒険者ギルド。  扉を開けて中に入るなり、顔見知りの受付嬢が俺の姿を見てそんな台詞を吐いた。  さて、なぜでしょう。  1. 俺が依頼とは違うウッドサーバルを肩に担いでいるから  2. いつもは余裕の表情でドラゴンを狩ってくる俺が、今日は疲労困憊だから  3. 俺の腕に抱きついているご機嫌なコボルト娘がいるから。  答えは全部。  そりゃ混乱もするだろう。 「――えっと? ギュスターさん今日はいつものソロでドラゴン狩りでしたよね」 「全ての疑問を一言に凝縮した台詞、どうもありがとう」 「どうなってるんですか、それ?」 「俺もねよく分かんないんだ」  どうしてこんなことになってしまったのかね、とほほ。  ギルド娘だけではない。依頼の申請・達成処理に、待合に座っていた同業者までもが目を剥いてこちらを見ていた。  なんだ、そんなにこの俺の光景がおかしいか。  おかしいのなら言ってみろ。 「あのギュスターが!! 人見知りのギュスターが、パーティを組んでいるぞ!!」 「天変地異だ!! 不吉!! 人類滅亡の前触れだ!!」 「この世の終わりはすぐそこまで来ているというのか!!」 「おかーちゃーん!! ごめんよぉ、最後に顔を会わせられなくてー!!」  おい、あんまりだろう、おい。  そりゃお前、俺は産まれてこの方ソロ専でやって来ましたよ。  えぇ、来ましたとも。  大手パーティからの参加依頼を断り。  二人・三人がかりが基準の討伐クエストを一人でこなし。  時に大怪我をしながらも、這いずって街に戻って生還する。  報酬を受け取っても一人酒。  誰ともツルまず、道具屋との会話も必要最低限。  よく喋るのはギルドの馴染みの受付嬢くらい。  それを人見知りって。  いや、言い逃れのできないくらいにそうか。  それでも世界が滅ぶとは幾らなんでも言い過ぎだろう。  あ、ほのかなアンモニア臭が――。 「大変だぁ!! 一大事だぞぉ!!」 「とにかく逃げるんだ!! 一刻も早く、この街から!!」  冒険者ギルドにつめていた、木っ端冒険者たちは、そんな素っ頓狂な声をあげ、ギルドから駆け出していった。  オークを相手に果敢に立ち向かう屈強な男たちが、半べそかいて次々に逃げ出していく。  なんて絶望的な光景だろうか。  まぁいい。こっちとしては、クエストの達成作業がしやすくて助かる。  まずはウッドサーバルを、冒険者ギルドの脇にある鉄製の籠に入れる。  それを受付カウンターの脇にある小さな穴から奥へと通すと、こなれた感じに受付嬢がカウンターの中へと引っ張り込んだ。 「まず、ウッドサーバル。ハントの途中で偶然遭遇してな。こうして持ってきた訳だ」 「なるほどなるほど」  納得した感じで頷くギルド嬢。  そして、すぐに卸先に連絡を入れておきますね、と、いつもの調子で言う。  こういうハントものは、その場で捌いて、皮だけ持ち帰る奴もいるが、そういう技術がない奴は業者に得物ごと卸すのが基本だ。そして、その仲介業務は、冒険者ギルドの主要な仕事の一つと言ってさしつかえない。  さて、次だ。  俺はベルトに結わえていた麻袋の中から、本来のクエストの達成品である、竜の逆鱗を取り出す。そして、受付嬢の立っているカウンターの前に置いた。 「間違いなく、竜の逆鱗ですね。討伐、おつかれさまでした」 「おう」 「しかしやっぱり頼りになりますねギュスターさん。今回のサイズは、三人パーティでもなんとかというくらいだったのに。魔法使いもいないでよく狩れるものです」 「慣れりゃどうってことないよ。戦争に駆り出されるよりは、よっぽど楽な仕事だ」 「あははは、そんなこと言うの絶対にギュスターさんだけですよ――で?」  いつもの世間話をして報酬を受け取って終わり。  と、なるかと思いきや、そこは数多の冒険者たちを見てきたギルド嬢だ。  彼女はまったく目ざとく最後に残った謎――俺の腕にがっちりとしがみついている、ワンコ娘の姿を見逃さなかった。  今まで見たことない、ちょっと軽蔑が混じったような、受付嬢の冷たい視線が突き刺さる。  なに、そんなに悪いことかね。こっちとしては迷惑千万だが、別に人にとやかく言われるようなことはしてないと思うんだが。 「そちらのコボルト娘さんはどうされたんです?」 「――拾った」 「ウッドサーバルに襲われていたところを、旦那さまに命を救っていただいたんです。けれども、その対価を払えないものですから――身体で返すことに」 「なんでお前そういう誤解を生むような発言ばっかするの!! ほんとやめて!!」 「……ギュスターさん、最低です」  ほらぁ。  突き刺さる視線が更に強くなる。  お前、この受付嬢さんと、俺の付き合いがどれほど長いと思ってんだよ。  それこそ人見知りの俺が唯一まともに会話できる相手なのよ。  そんな人間が一瞬にして、唾棄すべき人間のクズ、とでも言いたげな視線を送ってくるようになってみろ。  俺の精神値はガン削りってもんだよ。  そっちには能力値振ってないんだから利くんだよ。  この精神攻撃、めちゃくちゃ利くんだよ。  この世には筋肉で解決できないこともあるのだ。 「旦那さま」 「なんだよもう」 「お名前、ギュスターっておっしゃられるんですね!! 格好いいです!!」  こんな時でもマイペースかよ。  俺が顔面蒼白で受付嬢の視線に耐える中、腕にまとわりついたメルゥは、にこにこと、それこそ人懐っこいワンコのような表情で俺を見上げてきたのだった。
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