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第4話 なかったことにするならこんな風に

 いかん。この娘と話をしていても埒があかない。  とりあえず、これ以上、彼女の発言にいちいち煩っていても時間の無駄だ。 「――もういい」  俺は突き刺していた大剣の前へと、戻るとそれを引き抜く。  背中のベルトへとそれを結わえ付けると、そのまま森を抜けようとした。  メルゥをそのままその場に置き去りにして。 「待ってください旦那さま!!」  ほら来た。  なんだ、今度は森の外まで自分を連れて行けか。  調子がいいコボルトだな。可愛い顔してとんだお調子者だ。  そうは行くか。  こっちは久しぶりのドラゴン狩りで、どっぷりと疲れているんだ。  明日も予約済みのクエストはある。  食う、鍛錬する、そして寝る。  可及的速やかに日常へと回帰する。  どこぞの娘さんとは違う、熟練冒険者としてのこれは責務なのだ。いい狩り(ハント)には、いいルーチンワークといい生活。これを乱してはいけない。  それを阻害する奴は全部邪魔だ。  親睦を深めると証して深酒を要求するドワーフ。  ダンジョンやモンスターなどへの敬意が足りないと口うるさいエルフ。  隙あらば自分の利益を最大化しようとするスクーナ。  酔えば暴力を振るうオーク。  そして――こちらのたゆまぬ努力なぞ知らぬという感じに、と、俺のことをやっかむヒューマン。  うんざりだ。  誰かと関わることほど、俺にとって不要なものはない。  このコボルト娘――メルゥとの出会いにしてもそうだ。  俺の人生について、なんの影響も与えない。  孤独感がじくじくと胸を焼いた。いや、これは孤独感なのだろうか。  とにかく、こんなことを俺はしたい訳じゃない。  メルゥの言葉の次を待つまでもなく、俺はその場から歩きだした。  ――だが。 「このウッドサーバル!! 持ってお帰りにならないんですか!! 結構なお金になるんですよね!!」  ずるり、と、シリアスに決めた俺の背中が、間抜けに地面へと打ち付けられた。  剣を背負っているのでべらんぼうめに痛い。  というか、なに、そういう心配。 「もっと他に心配することがあるだろう!!」 「なにがですか?」 「――ほれ、こんな森の奥深くまで、初心者の癖に入り込んできて。無事に森の外まで出られるのかなとか、そういう奴だよ!!」 「――あぁ、なんとかなるんじゃないですか?」 「なんともなってなかっただろう!!」  無理だ。  無視することすら適わない。    にこにこと、瞳を閉じてこちらに微笑みかける、コボルト娘の善意なき笑顔に、心が風化させられるような気分だった。  普通ここは俺の孤独な心が癒される――的な、感動的なシーンになるべきなんだと思う。  なるかバカ野郎。  こんなコント仕掛けで、沸いてくるのはこの娘への苛立ちだけだよ。  しかし、その苛立ちを素直にぶつけたところで、何がどうなる訳でもない。  はぁ、と、またため息。  俺は身体をうつぶせになるように回すと、腕の力を使って起き上がる。  そうして、メルゥの元へと戻ると――ウッドサーバルの死骸を担ぎ上げた。 「そんな重たい剣も持ってらっしゃるのに、ウッドサーバルまで担いで。すごいですね旦那さまは。力持ちです」 「あぁはい、そうね。筋力値にステータスは全振りしてますからぁ」 「頼りがいがあります。コボルト族でも体躯のよい男性はおりますが、旦那さまのようなオーガみたいな体躯の方はそうそう居ません」 「オーガみたいって、それは褒めてるんかい」  褒め言葉にしても微妙に過ぎるぞ。  まぁいい。  このぽやぽや娘に付き合ってたら日が暮れる。  ほれ行くぞ、と、メルゥに声をかけると、俺は森の出口へ向かって歩き出した。  やっぱりコボルト。律儀なもんで、三歩後ろを彼女はしずしずと歩いてきた。  そうやっておとなしくしていてくれるなら、まぁまだ、可愛げはあるんだがな。  って、何を考えておるんだ俺は。
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