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第10話その4 エピローグ

(……って、どういうことだってばよ!?)  目を覚ました時、私がいたのは教室ではなかった。  ピンクでレースでフリフリの、もうすっかり見慣れてしまった乙女チックな可愛らしい部屋。 (ここ、ソフィアの部屋じゃん!!)  私はベッドから起き上がり、廊下へと飛び出す。 (戦闘後に体が光って、ソフィアが天から迎えに来たよね!? で、意識を失って……。普通あの展開だと、元の世界に戻るでしょ!? なんで私まだ、ここにいるわけ!?)  私は、話し声の聞こえる談話室の扉を開けた。 「おーっ、睦実ちゃん! おはよう!」 「目が覚めたんだ、良かった!」 「キブェ、ライリー……」  ぐるりと見回すと、全員そろって私を見ている。 「どうぞ、お座りください。お茶ですよ」 「あ、ありがとう……」  シェマルに促され、私は椅子に腰を下ろす。 「じゃなくて! これ、どういう事!?」 「なんだ、睦実。どういうこと、とは?」 「私、『封魂』をした後、元の世界に戻るような兆候を感じたのに……」 「あぁ、確かにキミが白い光に包まれ、少しずつ姿が薄くなってゆくのをボクたちは見ましたね」 「みんなにも見えたんだ。じゃあ、私、どうしてここにいるの!?」 「は? なんか触ったら、元に戻ったぞ」 「触った?」 「おう、今にも消えそうな気配だったからな」  ベルケルが無骨な指先で繊細なティーカップを持ち上げる。 「手を伸ばしててめぇに触れたら、半透明だった体があっさり元に戻って、その場にぶっ倒れた」 「!?」 「あ? なんかまずかったか?」 「まずかったって……」  ライリーがキブェの耳元に口を寄せる。 「……キブェ、ベルケルって睦実を触っただけだっけ?」 「いや、どっちかというと抱き締……」  重い打撃音が二つ、談話室に響く。キブェとライリーの2人が、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。 「な……、何すんだよっ、ベルケル!」 「いきなり殴った!?」 「あー、悪ぃ悪ぃ。虫が止まってた」 「虫なんていないよ!?」 「おぅ、ライリー、お前の場合は純粋に身長縮めてやろうと思ってな」 「本気でやめてよ! オレ、結構身長のこと気にしてんだから!」  私は椅子の背にへなへなと倒れ込む。 「いかがなさいました、睦実?」 「チャンスだったのに……」 「チャンスとは?」 「あの時の私、ソフィアと入れ替われそうな雰囲気だったの。触れずにおいてくれれば、ちゃんと『封魂』を使える子がここに来たのに」 「そうなのですか?」 「……多分」 「多分、ですか……」 「『封魂』を使える乙女と言うが、睦実」  エルメンリッヒが穏やかな眼差しで私を見ている。 「お前も使えたではないか」 「……っ」 「あぁ、そういや言ってたよな」  ベルケルが無造作にカップを指先で弄ぶ。 「急に、『封魂』が出来るようになったら、それは人が入れ替わった証拠だって。てことは、てめぇがソフィアか?」 「睦実です」 「だよな?」 「いや、だから……」  私はテーブルに突っ伏す。 「みんなはがっかりしないの? 本物がここに復帰するチャンスだったのよ?」 「本物と言われましても……」  シェマルがクスクスと笑う。 「私たちの目の前にいる方も、『封魂』が扱える以上、本物ではないでしょうか?」 「私の場合、ミランの機械やみんなの協力なしには不可能なの! でも、ソフィアならそんなものがなくても……」 「睦実は、元の世界へ帰りたかったの?」 (ライリー……) 「この世界から、さっさとおさらばしたかった?」 「そ……ういうわけじゃ、ない、けど……」 「じゃあ、問題なしだね!」  ライリーの太陽のような笑顔に、こけそうになる。 「いやいやいや、もっと危機感持って!? 今後、戦いはもっと厳しくなるのよ? 『封魂』するまで色々ややこしい手順が必要な私がいるより、ソフィアがいた方が世界が……、みんなだって助かるでしょ!」 「そうかもしれぬが、我らが出会った『封魂の乙女』は睦実、お前だけだ」 「エルメンリッヒ……」 「その者がどれほど有能かは知らぬが、我らの仲間はお前だと私は認識している」 (学園のみんなには、ソフィアの存在していた記憶があるんだけどな……)  今更あれこれ言っても考えても始まらない。交代が失敗した以上、次にソフィアと接触できる時まで、私が頑張るしかないだろう。 (それに……)  今は、皆と囲むこの空間を心地良く感じているのも事実だ。ここに来たばかりの頃、三次元イケメンに囲まれる生活に委縮していたことが嘘のように。 (みんなが、私が別世界の人間だと知っても、変わらず受け入れてくれたことも嬉しかったし)  私はティーカップに手を伸ばし、馥郁たる香りの立ち上る紅茶を口に含む。 「まぁ……、あのガントレットがあれば『封魂』が可能だって分かったから、しばらくはいいか……」 「あぁ、すみません。そのことなんですが……」  ミランが私の前にガントレットを差し出す。 「エネルギー量が限界値を越えていたらしく、壊れてしまいまして」 「は!?」 「しかも破損した部分には、かなり希少な鉱石を使っておりまして、これをもう一度手に入れるには少々時間を要します」 「嘘でしょう?」 「事実です」 「じゃあ、『封魂』は?」 「またしばらく、無理ですね。あぁ、魔法攻撃も」  私は脱力して、再びテーブルに突っ伏す。 「……また役立たずに逆戻り……。それどころか、もう攻略情報もないのに……」 「あっはっは、何言ってんの。睦実ちゃんには『かきん』攻撃があるっしょ?」 「そう言えば政府からいくらか手当てが下りることが決定した。安心するがいい、睦実」 (うぅ……)  乙女ゲーをする時、何の役にも立てないくせにイケメンにちやほやされるヒロインに、苛立ちを覚えたことがあった。 (今の私、まんま役立たずヒロインなんだけど……。しかも大して可愛くない……)  それでもこんなに優しく受け入れてくれる彼らは、まさにプロの乙女ゲー攻略キャラだと思う。いや、プロの乙女ゲー攻略キャラって何だよ。 (もう腹をくくって、なんとか平和度を保てるよう頑張るしかないよね。『封魂』が出来る可能性も0ではなくなったんだし)  この物語が何章まで続くか分からないけれど、今自分に出来ることをやって行こう。私を受け入れてくれる彼らと共に。 (モブ顔、BMI23で何の特殊能力もない、ヒロイン要素マイナス値の私がこのポジションにいるのは申し訳ない気もするけど、ね) そう思いながら私はカップの中の紅茶を飲み干した。                                  (了)
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