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第8話 その2 獣人男子とケモ耳男子

 翌朝。  朝食のためにダイニングに出向いた私は、思いがけない光景を目にすることになった。 「なっ……」 「おっはよー、睦実!」  元気よく迎えてくれたライリーの頭には…… 「……なんでネコ耳ついてんの?」  あまりにメジャー化しすぎてやや新鮮味に欠ける萌え系アイテム、猫耳カチューシャが鎮座ましましていた。 「耳だけじゃないよ、ほらっ」  ライリーがこちらにお尻を向ける。 (尻尾まで……!)  しかもご丁寧に、ライリーの動きに合わせて両方ともピコピコ動いている。まるで、それらが元々ライリーの体の一部のように。 (何これ、ダウンロードコンテンツ!?) 「すみません、ミランがどうしても、と言うもので……」 (おぅ……)  言いながら近づいてきたシェマルの頭とお尻にも、ライリーと同じものがついている。ただしデザインは本人の容姿に合わせて、微妙に違っているけれど。 「昨日、貴女がキブェの獣人変化に合わせて力を放出していたので、私たちも似たような容姿になれば、貴女の中に眠る謎の力が安定するのではないかと、ミランが」 (ミランの仕業かーい……) 「貴女のエネルギーを安定した状態で観察できれば、それを魔力に変換する研究も進むとミランが言うものですから、こうして全員で協力しているわけです」 (全員!?)  言い出しっぺのミランは猫耳をつけたまま、しれっとした顔つきで装置を見つめている。 (てことはベルケルも!?)  期待に胸を躍らせ、ベルケルの席へ目を向けたが。 「ふんっ!」 (あ、片手で粉砕した……)  猫耳付きベルケルは、一目見ることさえ叶わなかった。 「もー、ベルケル!」  尻尾をブンブン振りながら、ライリーが咎める。 「これは遊びじゃないんだよ? 今後、睦実の力が発揮できるかどうかがかかってる、大切な実験だってのに」 「うるせぇ! やってやれるか!」 「いかがですか、ミラン。睦実から謎の力は……」 「んー……、駄目ですねぇ」  ミランの頭の上の猫耳が、くいっと後ろを向く。 「ここへ来た時、一瞬だけ5%ほど出たのですが、それ以降はうんともすんとも」 「そうですか……。やはり、偽物では駄目なのですね……」 (偽物って言うか……、あー、うん、ごめん……)  落胆したように猫耳カチューシャを頭から外すシェマルに、少々申し訳ない気分になる。 (ごめんなさい、コスプレ系ケモ耳男子と獣人は別ジャンルなんです。私が濃いめのケモナーなだけで、ケモ耳つき人型イケメンに萌える人たちもちゃんと存在していますから! 私がそうじゃないだけで!) 「ん……?」  私はあることに思い当たる。 (まさかとは思うけど……)  私はミランの手元にある装置に目を向ける。 (ひょっとしてあの機械、私の『萌え』に反応してない?) 「ん? どうしました、睦実?」 「へぁっ!? い、いや、何でもないです……」 (はははは、いやいや、まさかね、ははは……)  萌えや尊みを感じることで、魔力に似たエネルギーを放出するって何だ。ありえないでしょう。 (い、いや、そうとも言い切れない……?)  例えば、だ。人気ジャンルの盛り上がりに合わせて、現実が動くことがある。  戦艦な美少女ゲームで世間が盛り上がっている最中に、行方不明だった戦艦が海底から発見された例がある。刀をテーマにしたゲームのブームと共に、永く真贋が疑われていた刀が本物だったと判明した例もある。文豪をモチーフにしたゲームの人気の上昇と共に、文豪の未発表作品の原稿が発見されたことも。 (強い思いが、不思議な力を生む……?)  だからと言って、私が萌えたら謎のパワー発揮と言うのも、ちょっとご都合過ぎやしないだろうか? 「すまぬ……」 「っ!」 「効果がないのであれば、そろそろ……これをはずしても良いだろうか……」  キッチンから、これまで聞いたことのないエルメンリッヒの弱々しい声が聞こえてきた。  振り返った先には……、 (ふおぉおおおお!?)  猫耳を装着したものの、プライドと羞恥に責めさいなまれ、キッチンに身の殆どを隠したまま出て来られないエルメンリッヒがいた。壁に隠れていて、体の殆どは見えないものの、伏目がちの目と紅潮した頬が覗いている。壁を掴む手までもがうっすらと紅い。 (何これ、可愛い!! ああっ、有難い! 尊い!!) 「ミラン……、もうよいな。はずすぞ?」 「いや、待ってください、エルメンリッヒ」 「何故だ。このようなものを装着しても効果がないと、結論が出たのだろう」 「いや、今、針がMAX振り切っているんですよ」 (ぶごっふぉ!?) 「な……、何ゆえだ!?」 「いや、ボクにもよく分からないんですが……」  間違いない……。 (あの計器の針、私の『萌え』に反応してるよ!!) 「睦実、現状を正確に説明してください」 「はい!?」 「今、キミからはすさまじいエネルギーが放出されています。このエネルギーの謎をボクは解き明かしたいのです!」 「え……えっと……」 『羞恥に身を捩る高貴なエルメンリッヒ様の涙目マジ尊い』 (言えるかぁああ!!)  そんなの、「私の心はこれに対して勃起してます」と告白するようなものだ。 「わ、私、そろそろ学校に行くね……!」  目の前のクロワッサンサンドを引っ掴み、その場から逃げ去ろうとして、壁のような何かに勢いよくぶつかった。 「おっとっと、前方不注意だぜ、睦実ちゃん。ちゃんと前を見なきゃ」 「キブェ……」  キブェを見上げ、彼の頭にも例の猫耳が装着されているのを認め、私は……。  キレた。 「何やってんのよ、キブェ!!」 「ひぇっ!? え? な、何!?」 「天然物の立派なイケ獣人がコスプレ系ケモ耳男子の真似をするなんてありえない!」 「待って、何!? なんで俺、怒られてんの!?」 「分かってないから! あなたは自分の価値を分かってない!」 「価値!?」 「本人のくせにものまね芸人の真似するのやめて! 金輪際! ダメ、絶対!」 「分かった! 言ってること全然理解できないけど、俺が悪かった! 落ち着け!」 「ミラン、現在の数値はいかがですか?」 「完全に沈黙しましたねぇ……くふふっ」
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