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第6話 その5 宣告

 現場に辿り着いた時、陽は沈みかけていた。 「あれだな」  エルメンリッヒの指した先には、数体のメトゥスが蠢いている。 「あれぐらいの数なら、なんとかやれるか。おっし、とっとと片付けちまおうぜ!」 「待って、ベルケル!」  メトゥスの群れに向かって走ろうとしたベルケルを私は止める。 「んだよ、調子狂うな」 「ご、ごめん。……あのメトゥス、すっごく夜目がきくの」 「よめ?」 「陽が沈むほどに、私たちの攻撃は相手に当たりにくくなるし、向こうの攻撃はこちらに当たりやすくなるわ」 「マジかよ、睦実ちゃん!」 「えぇ、キブェ。だから……」  私はバッグから、街で買っておいた閃光の珠を取り出す。ゲーム内では3ターンの間、辺りを昼のように照らすアイテムだ。 「これで少しの間、この一帯を明るくするわ。彼らは夜目がきくけど、明るい場所だと逆に見えなくなるみたいなの」 「なるほど、相手がまごまごしてる隙にボコっちまえってこったな?」 「うん、そう」 「睦実、いつものことながら素晴らしい采配だ。感謝するぞ」 「いえ。では……、いきます!」  私は閃光の珠を思い切り空へと投げ上げる。それは一瞬激しく光ると、辺りを昼のように煌々と照らし始めた。  メトゥスたちがたじろいだのが見て取れる。 「今だ! 皆の者、一気に叩くぞ!」  鬨の声と共に、導魂士たちがメトゥスに飛びかかり攻撃を始める。 (ようし、私だって……!)  バッグの中を見る。赤い珠の中で、炎が揺らめいている。 (魔法が使えなくても、銀オラにはこんな便利グッズがあるんだよね!)  私は赤い珠を掴むと、メトゥスに向かって思い切り投げつけた。それは激しく燃え上がり、炎はメトゥスを包み込む。 「うわ、睦実ちゃん、魔法使えるようになったの!?」  豹の獣人に姿を変えたキブェが、目を丸くする。 「ううん、全然! でも課金でなんとかする!」 「『かきん』!?」 「推しや好きな作品にお金を貢ぐことよ!」 「それが、『かきん』?」 「そう! レベルが足りない分は、マネーパワーでカバーする!!」 「痛って!!」 (ライリー!?)  攻撃を食らってしまったのか、ライリーが額から血を流している。 「ライリー、今、回復に参りま……あっ!」  シェマルが回復魔法を使おうとしたが、一匹のメトゥスが行く手を阻み、こちらへ来ることが出来ない。 「シェマルはそいつの相手をしてて! 私がライリーの所へ行く!」 「しかし睦実……、貴女、魔法は……」 「大丈夫!」  私はバッグの中へ手を突っ込み、虹色の珠を掴み出す。 (回復薬・小!)  ライリーに向かって投げつける。それは彼の頭上ではじけ、その傷を瞬時に癒した。 「ありがとう、睦実!」 (ようし、この調子でガンガン行くわよ……!)  戦闘で役に立てることに、心が高揚する。 (この手があったことになぜ今まで気づかなかったのかしら)  攻撃用の珠を掴み、私はメトゥスに投げつける。 (銀オラはソシャゲじゃないけど、重課金勢になってやる!) §§§ 「今日はすごかったね、睦実!」  戦闘を終えると、ライリーが笑顔で駆け寄って来た。 「攻撃に回復に、大活躍だったじゃん!」 「え、へへ……」 「ですが」  ミランが眼鏡の位置を直しながら、歩み寄って来る。 「アイテム消費量が凄まじいように思えましたが?」 「あ、ミラン。うん、まぁね……」  私はバッグの中を見る。街で買っておいた戦闘用アイテムは、この戦いで半分くらいに減っていた。 「ボクの記憶が確かなら、これらはかなり高価な品のはずです」 「えぇ、まぁ……。でも、報奨金いっぱいもらえてたし」 「睦実……」 「マネーパワーで戦闘の役に立てるなら、ここは課金しかないかな、って」 「だが、このようなことをしていては、報奨金などすぐに底をついてしまうだろう。お前がそこまでする必要はないのだぞ」  エルメンリッヒの手が私の肩にかかる。 「戦闘の前の預言だけでも、十分に役に立っているのだからな」 (預言……)  あれは私のゲームのプレイ中の記憶を元にネタバレしているだけだ。しかも私は5章までしか知らない。次の戦闘が終わったら、私は『預言』が出来なくなる……。 「だ、大丈夫」  私はバッグを閉める。 「今日はひたすらアイテムに頼ったけど、シェマルに魔法も習っているし。魔法が使えるようになれば、アイテムの出費も抑えられるようになるはず。それにいずれは封魂だって……」 「睦実……、それは無理です」 「シェマル?」 「…………」 「無理って、どういう事?」 「それは……」  シェマルは顔を曇らせ、口をつぐんでしまった 「シェマル? どうしてそんな悲しい顔を?」 「心優しい彼には言いづらいのでしょう。ボクから説明します」 「ミラン?」 「実は先日、キミがシェマルと魔法の特訓をしていた時に数値を測らせていただいたのです」 「数値? 何の?」 「キミの魔力の量です」 「え……」 「0でした」 「……ゼロ?」 「はい。ボクの機械はキミから魔力を全く感知できませんでした。すなわち……」  眼鏡の奥の知的な瞳が私をまっすぐに見ている。 「キミはどれだけ特訓をしても、魔法を使えるようにはなりません」 (え……)  その場が沈黙に包まれる。  冷たい夜風が私たちの髪をそっと揺らした。
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