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薬草採りは儲かる

 始まりの大草原で採れる薬草は多岐に渡るが、一番有名で一番必要とされているのは「始薬草」だろう。  この始薬草と呼ばれる草はその名の通り様々な薬の原料となる基本の材料であり、これが無ければ作れないという薬も多い。  たとえば基本の塗り薬である傷薬、飲み薬であるポーションも……あるいは毒消しや魔力回復薬であるブルーポーションといったものに至るまで、全て始薬草を必要としているのだ。  その特徴としては、ちょっと有り得ないくらいに濃い緑色の船形の葉が均等な間隔で円を描くように五枚生えていること。  その中心部には同じ形の葉が天に向けて寄り添うように三枚生えていること。  この合計八枚の葉で始薬草一株となっている。  根っこまで上手く採集するとその価値は上がるが、葉っぱだけでも充分に薬効がある為「始薬草採取」といえば葉だけのことを指すこともある。  始薬草が次もしっかり生えるようにという配慮もあるとされているが……ショウはそんなものは気にしない。 「お、あったあった」  一見すると似たような草もたくさん生えている中から目当ての始薬草を見つけると、ショウは剣を引き抜いて始薬草の周辺を円を描くように掘り始める。  やがて円状に始薬草の周囲に少し広めの溝が出来たことを確認すると、ショウはその溝の中に剣を深く刺し入れる。 「よっ……と」  ボコリ、と始薬草のある辺りの地面が盛り上がったのを確認すると、ショウは薬草を土ごと持ち上げる。  すると、ズルリと始薬草が根っこごと……その周囲の土ごと掘り起こされる。  元々始薬草の根は深くないと知っているからこそ出来る荒業だが、ショウはそれを満足そうに見て始薬草をゆさゆさと振って土を落とす。 「うし、綺麗にとれたな……中々美人じゃねえか」  そんな事を呟きながら、ショウは腰につけた籠に始薬草を入れる。  袋に適当に入れる冒険者も多いが、そうなると押し付けられることで始薬草の形が多少悪くなる。  別にそれで薬効は変わらないのだが、そういう妙なところにこだわるのがショウという男だ。  ……実を言うと薬師ギルドでも形のいい始薬草の方がなんとなく良さそうということで「綺麗にとってきてくれ」という……いわゆるショウ基準のお願いが増えてきてはいる。それもショウが変なところでこだわりを入れるせいで薬師ギルドに伝染したせいだ、とも言われている。  余計なことしやがって。ほんとにロクなことしねえ……とは冒険者ギルド職員の言葉だが、ショウは気にしないし薬師ギルドからの要望がある以上は冒険者ギルドとしてもショウに「綺麗にとってくるんじゃねえ」とは言えるはずも無い。  言ったところでショウが聞くとも思えないのだが……それはともかく、ショウは手際よく更に三本、四本と始薬草を採取していく。   「お、あそこにあるのは……間違いねえ、雫草だ。ツイてるな」  ブルーポーションの材料となる雫草……特に高値で売れる薬草を見つけると、ショウは駆け足で走っていく。  早い者勝ち、これは薬草採取に限らず全てに通じる大原則だ。  先に手をつければそいつのもの、目をつけていたかどうかが問題じゃない。  そんな大原則を遵守すべくショウは走り……。 「きゃああああああああああああああああああああああ!」 「あ?」  聞こえてきた声に、ショウは思わず足を止めて。 「たすたすたすたす、たすけてええええええ!」  視線の先。雫草の上を走って横切っていく少女に、ぐしゃりと雫草が踏まれたのを見た。 「……あっ」  雫草は青い釣鐘状の小さな花を幾つもつける、とても繊細な薬草だ。  当然踏めば潰れてしまうが……。 「ゴーブゴブゴゴゴブ!」 「ゴブゴブ!」  少女を追うように走っていく緑色の小男達……ゴブリンと呼ばれるモンスター達が雫草にトドメを刺すように踏みつけていったのを見て、ショウは呆然とその後を見送る。  ……おそるおそる近づいて見た雫草は、もう値段なんかつかないくらいにグチャグチャに潰れている。  潰れた雫草。綺麗に採取できれば今日の価格は確か九千イエン。  安宿なら五泊、普通レベルの宿なら一泊してそこそこの酒と飯をつけられた。  自分なら自信があった。すでに何を飲むかだって決めていたのだ。 「……」  少女とゴブリン達は、まだ追いかけっこをしている。  中々の健脚だが、少女の方はすでに息が切れ掛かっている。そんなに長くはもたないだろうことは明白だった。  ……が、ショウはそんな事はどうでもいい。 「待てオラァッ!」  ズドン、と音を立てて地面を蹴散らすようなスタートをきってショウは走る。  剣を抜き、憤怒の表情を浮かべて……少女を追いかけるゴブリンを追いかける。 「ゴブッ!?」  その気迫に驚いたゴブリンの一体が振り返るが、その瞬間には追いついていたショウの剣に斬られ地面に転がる。 「ゴブッ!」 「ゴブゴブッ!」 「こんの……アホゴブリンがあ!」  仲間がやられたのを見て棍棒を構えた残り二体のゴブリンも、ショウに次々と斬られて倒れ伏す。 -レベルアップ! ショウは剣士(レベル4)になった!-  そんな音が冒険者カードから聞こえてくるが、ショウは聞いてすらいない。  自分が助かった事に気づいた少女がショウを潤んだ目で見上げていることにも、気づいてはいない。 「あ、ありがとうございます! あたし、もう駄目かと……」 「オウコラお嬢ちゃん。どう落とし前つけてくれんだ?」  故に。お礼を言う少女に対してショウの口から飛び出たのは、そんな言葉であった。
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