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冒険者のクズ・ショウ

「……金がねえ」 「いつも無いじゃろ、お主は」  冒険者ギルド。ダンジョンを探索する冒険者達の集まるこの場所は一階が酒場になっているせいで、朝から酒を呑む連中も存在する。  まあ、昼夜関係ない職業なのだから「夜働いて朝に帰ってきて呑む」といったライフスタイルも成立してしまうのが彼等だ。それに文句は誰もつけまい。  しかし今、テーブルに突っ伏して「金がねえ」と呟いたこの男は別である。  何しろこの男、ここ最近ロクな「冒険」をしていない。 「金が欲しけりゃ働けばよかろ。働いた分だけ金が手に入る。それが世の真理ってもんじゃ」 「そいつぁどうかな。実際俺の前にゃ、ロクに働いてねーのに金満な奴が居やがる」 「わしは金貸しじゃ。金貸しは金を貸すのが仕事じゃからの。つまり、今この瞬間も働いとるわけじゃな」  カラカラと笑う少女に、男がケッと吐き捨てる。  この辺りではあまり見ない黒髪を雑に切り揃えた目つきの悪い男と、紫の長い髪を真ん中分けにした小生意気そうな少女という奇妙な取り合わせ。  しかしながら、彼等はこの酒場の名物コンビでもある。  男の方は、ショウ・モネー・クズ。冒険者歴はかなり長い……年数だけでいえばベテランなはずの男だが、テーブルに立てかけてあるのは古ぼけた鉄の剣。着ている鉄製の胸部鎧も古ぼけていて、あまり良いものには見えない。  今年で26になるショウは昔は良い意味で有名人だったが、今となっては悪い意味での有名人だ。  少女の方はシュセン・ドナロリ。少女に見える外見だが、今年で3000超えて7歳を自称している。その尖った耳から長命種族のエルフである事は分かるから、あるいは本当にそうなのかもしれないが……真実はシュセンしか分からない。そんなシュセンの格好は冒険には向いてそうにないドレスだが、不思議と似合っている。 「……お前のジョブは金貸しじゃなくてむがっ」 「人様のジョブを気軽に口にするでないわ、阿呆が」  容赦なく鼻を抓まれ、ショウは慌てたように身を引く。  痛む鼻をさするショウは明らかに被害者だが、シュセンは史上最大の被害者であるかのような顔で「うわあ……」と呟き自分の指を見つめる。 「……反射的にやってしもうたがお主、ちゃんと風呂入っとるか? わしの可愛い指が穢れてしまったかもしれん」 「冒険者がダンジョン潜る時、何日風呂入らねーと思ってんだ」 「お主は今日は潜っとらんし、そもそも清浄の魔法具を持っていくわい」  ゴミを見る目で見てくるシュセンにショウはその目つきの悪い目を向けながら、再びケッと毒づく。 「そんなもんに頼り切りになるから、なよっちい冒険者様が増えんだよ」 「そいつは否定せんがのう。道具なんちゅーのは必要があって開発されるもんじゃ」 「そーかい。はー、金がねえ」 「貸さんぞ」 「金を貸さねえ金貸しとか、何処に存在意義があんだろな……」 「お主は貸しても呑んだくれるじゃろうが」  そう。ショウ・モネー・クズはクズである。  まともにダンジョンに潜らず、適当な場所で採取などをして帰ってきては報酬で酒を呑む。  その採取が文句のつけようもない程にプロな為、それでなんとかなってしまっているのだが……冒険者としても人としてもダメ人間そのものだ。  クズといえばショウ、と言われる程にダメ人間であり、この冒険者の酒場でショウとまともに話をしているのはシュセンくらいのものだ。  まあ、そのシュセンも冒険者とは言い難い為に似合いのコンビと言われてはいるのだが……駆け出しの頃にシュセンから金を借りて装備を整えた者も多い為、表立ってそれを言う者は居ない。そもそも、何故シュセンがそんなにショウを構うのかも知られてはいない。 「知っとるか? 神殿では今日、聖剣の主の選定をしとるらしいぞ? ほれ、あの……」 「アルトだろ、知ってるっつーの。あの野郎、いつか絶対ぶっ飛ばす」 「カカカッ! あの男、お主を嫌っとるからのう!」 「俺の方が嫌いだっつーの」  あからさまに不機嫌な顔をするショウの頭に手を伸ばし、シュセンは撫でる。 「まあ、そう言うな。お主がアレを嫌う気持ちは分かるが、わしはそうでもないぞ。昔のお主みたいだしのう」 「あの頃の俺に今会ったら叩き殺してるね。ありゃあ最低のクズだった」  手を払うショウに苦笑すると、シュセンは椅子に深く腰掛ける。 「世間的には今がクズそのものなんじゃがのう」 「あの頃よりゃマシなクズのつもりだっつーの」 「……ふむ」  顔を覗き込んでくるシュセンから、ショウは居心地悪そうに目を逸らす。  ショウは、シュセンに悪態はつけても逆らえない。それは長い間に築かれた一つの関係でもある。 「……ま、よかろ。そういうのに飽きていよいよどうしようも無くなったときゃ、わしが養ってやるからの。精々腐るとええ」  そうシュセンが言い放つと同時に、ショウはぐうと呻いて立ち上がろうとする。 「ちっと稼いでくる」 「おうおう、そりゃええ事じゃの。じゃが、ちと待て。先程からこっちを睨んでる娘がおるでな」  言われて、ショウは面倒くさそうにその方向へと視線を向ける。ショウが睨まれるのはいつもの事なので全く気にしていないのだが……その視線は確かにしつこく、圧も強い。  その視線の主は年でいえば15か16か、そのくらいの少女だった。
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