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お金ならありません

「え!? お、落とし前!?」 「おう。お前を追ってたクソゴブが踏み潰した薬草、滅茶滅茶高いんだぞ。どうしてくれんだ」 「踏みって……え、でも。そんなもの落ちてませんでしたよ!?」 「あったりめえだろ、これから採取するとこだったんだからよ」 「ええ!? ていうかあたし悪くないですよね!」 「クソゴブ連れてきたのはお前だろーが!」 「理不尽です! ていうかあたし悪くないです!」  実際、少女の言う通りだ。雫草にしたって採取前は誰の物でもないし、踏んだのもゴブリンだ。  まあ、採取の邪魔という点においてのみショウの主張は正しいのだが……。 「だとしてもだ。お前を助けたのは俺だ。違うか?」 「うっ、いや。それはその通りです。でもお礼言ったじゃないですか」 「ハハッ」  少女の言葉に、ショウは爽やかな笑顔を浮かべてみせる。 「いいか、嬢ちゃん。お礼ってのはな……言うもんじゃねえ。払うもんなんだ」 「うわっ」  手の指でお金マークを作って見せるショウに少女は物凄くヒいた顔をするが、それをショウは見逃さない。 「……助けられた分際でいい度胸じゃねえか。もう一回ゴブリンに追われるとこからやり直すかコラ」 「ぎゃー! だってお金ならないですよ!?」 「はあ、無い!? 文無しがゴブリンと追いかけっこやってる場合かコラ!」 「だってだって! 薬草なんか区別できませんもん! 草は草じゃないですかー!」  半泣きの少女を前に、ショウは呆れた表情で天を仰ぐ。  間違いない。目の前の少女は、正真正銘の初心者だ。  薬草採取は冒険者の基本で、普通はそれから始めて装備を充実させる金を稼ぐ。  それが出来ない……というか手先が不器用な者達はシュセンにお金を借りて装備を整えゴブリン狩りから始めたりする。  しかしその場合、シュセンが適当な者に声をかけてパーティを組ませるはずなのだ。  ……さて、ここで少女を見てみよう。  髪はよく手入れされた肩くらいまでの長さの、緑色のふわふわヘア。  服は魔法士用の、結構高級なミスリル糸を編み込んで作った白いローブ。  杖はどの属性の魔法士にも合う透明な魔法石のついた金属杖。  荷物袋は持っていないが、腰には小さな革袋が下がっている。  どう見ても、しっかりと装備が整っている……いや、整いすぎている。  シュセンから金を借りたにしても、ここまでのものは揃わないはずだ。  となると……。 「何処か貴族の娘か? お前」 「へ? いえ、うちはただの商人ですけど」 「ほーん、それでか」  勿論個人差はあるが、商人は下手な貴族より金を持っていることも多い。  娘に金の力で装備を整えたところで不思議はないが……そうなると、逆に不思議な点がある。 「お前、護衛は?」 「え? いないですけど」 「なんでだよ。商人の娘の道楽にしたって護衛くらいつけんだろ」 「ど、道楽じゃなくてお仕事です!」 「はあ?」 「だってあたし、自分で稼げって家追い出されましたもん!」 「はあー!?」  見たところ14か15歳頃に見えるが、どうしたらそんな事になるのか。  余程特別な事情でもない限り、親の庇護下にある時期だろうに。 「お前、14か15くらいだろ? なんでんな事になってんだよ」 「あ、あたしは18です!」 「嘘つけ。てことは家出娘か。つまんねー嘘つきやがって」 「ほ、ほんとですもん!」 「分かった分かった」  適当に答えると、ショウは少女をヒョイと小脇に抱える。 「へ!? お、おじさん何を!」 「おじさん言うんじゃねーよ、俺はショウって名前がある」 「あたしだってイエカって名前があります!」 「おう、そうか。で、家名は?」 「え? ラデナイですけど。でもそれが何か」 「ラデナイ商会か。それなら結構デカいとこだな。礼金もたっぷり貰えそうだ」  確か商業地区の中でも大通りの一等地にある商会だったはずだ。  地域に根差した商会とかで、外部から来る大商会にも負けていないやり手商会。  取り扱っている物はダンジョン産の品や冒険用品が中心だったはずだからイエカの装備にも納得がいく。 「え、だだだ、だめですー! 稼ぐまで帰ってくるなって言われてますもんー!」 「ほいほい、分かった分かった」 「絶対分かってないですー! きゃー、ひとさらいー!」  騒ぐイエカを無視して、ショウはダンジョンの外に出る道を急ぐ。  家出娘を保護して礼金ゲット。ゴブリンから助けたのは事実なのだから何の問題もない。  雫草の損害分くらいはしっかりと補填できるだろう。  そんな明るい未来を考えながらショウは走って……突如股間を襲った激しい痛みに思考が真っ白になる。  抱えられていたイエカの杖による、股間への刺突。  中途半端な体勢からで然程勢いはないとはいえ、それでも充分すぎる痛みがショウを襲い……力が緩んだ隙を狙ってイエカが脱出する。 「助けてくれた事は本当にありがとうございます! でも、あたしは本当に家には帰れないんです!」 「お、おごう……」 「だからあたしを連れてってもお金なんか貰えないんです!」 「ぐぬあ……おうく……」 「あたしは立派な冒険者になってお父さんを見返し……」 「ぬぅふ……」  言葉にならない何かを呻くだけのショウが流石に気になったのか、イエカは中腰になってショウを見下ろす。 「あ、あのー……ショウさん? そんなに痛かったですか? あたしって実は打撃系の才能がぎゃー!」  ショウは残された力でイエカを押し倒すと、至近距離からその顔を睨みつける。 「お、お前が男ならマジ全殺ししてたからなコレ。よりにもよって俺の股間様をお前ぇ……」 「ひえっ! 近い近い近いです!」 「とにかくお前の事情っつーのは後でしっかり聞くし礼金と賠償金はツケにしといてやる。絶対払わせるからなお前……」 「だから近いですー!」 「ぐぼぁっ!」  再度の股間への一撃がショウを襲い、耐えきれなくなったショウがイエカへと倒れこむ。 「ぎゃー! 重たっ……ちょ、ショウさん! ショウさーん!?」  遠のきそうになる意識の中で、ショウはイエカに払わせる賠償金をしっかりと上乗せする。  とにかく、今日の仕事はもう無理だ。  そんな事を考えながら、ショウは痛みに耐え蠢いていた。  
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